科学的教育知:学習と教育を考える足場
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キュレータ: 徐 丙鉄 近畿大学工学部

佐伯胖 「学び」の構造 東洋館出版社

学べない人間の三つのタイプ(p.20)
  1. 無気力型:最低の要求水準をスレスレで満足させるだけの人間
  2. ガリ勉型(作業的学習観):学習を「勉強作業」とみなす。断片的知識の集積,無意味学習。
  3. ハウ・ツウ型(方法的学習観):「考える」ことをすべて「うまくやる工夫」とみなす。真理への問いかけの欠如,知識は人と「よさをわかちあうもの」としてではなく,秘匿する。
「おぼえる」と「わかる」のちがい(p.38)
「おぼえる」可逆,「わかる」非可逆
理解の3条件:H.Petrie(p.40)
  • その人は命題Xを経験を通して信じるに至る。
  • 命題Xは真である。
  • その人は命題Xが真であることを正当づけるのふさわしい理由を持つ。

「わかったもの」がもとへもどらないのは,それが「真理」として認識されているから,それを自分の経験や理由を通して信じるに至っているからである。(p.42)

人間の一貫性の獲得(p.81)

「認知心理学」なる領域の最大の中心テーマが,人間の一貫性(認知心理学ではこれを「構造」とよぶが)の獲得である。 ・・・ この人間の「一貫性への志向」を文字通り死に至るまで信頼しきって,そこにこそ,否,それによってのみ,人間は知識(道徳もふくむ)に至ることを身をもって証した人が,かのソクラテス自身であった・・・。

行動主義的心理学:行動の形成 スキナーの心理学(p.115~)
  • 即時強化:のぞましい行動に少しでも近い行動の直後に「強化」を与えるべし。
  • 逐次的接近法:はじめから最終目標となる行動が出るのを待つのではなく,そこへむかっていく少しでも近い行動に対して強化を与え,一歩一歩,少しずつ目標に近づけるべし。

ある反応が生じた直後におこった事象のうち,のちにその反応の出現確率を高めるに至る事象を強化とよぶ。

ティーチングマシンの限界:レヴィーンの実験(p.123~)

レヴィーンの実験

AまたはBと書かれたカードが2枚同時に提示され,被験者は正しいと思う方のカードを指す。正答であれば実験者は「よろしい」といい,誤っていればだまって,次の試行に移る。このような試行が何回もくりかされる実験。

実験1:正答をもたらすルールがカードの文字とは無関係に,カードの位置(たとえば右左右左・・・という順序)である場合を学習させる。

実験2:正答をもたらすルールがカードの文字(たとえばA)である場合を学習させる。

実験1,2単独では,被験者は数回の試行でルールを学習するが,実験1の後に実験2を実施すると100回以上の試行後でも正答率が50%近辺を超えない。

実験結果の解釈:学習者が頭の中でいだく「仮説」や「概念」を無視して,ただ毎回正答に対してフィードバックを与えれば,必ず学習が成立すると考えるわけにはいかない。(p.126)

注)転移(transference)

先に行われた学習が,後に行われる学習に影響を与えることを転移という。転移が抑制的な場合を負の転移(negative transfer),促進的な場合を正の転移(positive transfer)という。 転移に影響する条件として,2つの学習の ①同一要素の有無,②学習材料の類似度,③原理の共通性,④学習方法,⑤学習の程度,⑥時間間隔,などがあげられている。

Redish 科学をどう教えるか 丸善出版

脳が活性化している状態:brains-on(p.3 l.10)
学生が効果的に学ぶことができるのは,脳が活性化している「brains-on」状態での活動を通してである。「brains-on」状態とは,学生たちが何とか理解しようと,熱心に考え,もがいている状態のことである。彼らがこのような脳が活性化された状態になることを促進し支援するような環境を作り出せば,そこに効果的な授業が生まれる。
問題が解けることと理解していること(p.21 l.10)
学生は物理を正しく理解していなくても,手続に従えば解けるアルゴリズム的な問題に正答することができることがしばしばある。
記憶:情報の脳への蓄積のされ方

記憶のモデル

作業記憶と長期記憶 p.28

  • 作業記憶は高速だが限定的である。少数のデータの塊(blocks)しか取り扱えず,その内容は数秒後には消えてしまう傾向がある。
  • 長期記憶は,「事実やデータおよびそれらの用い方と加工の仕方」についての莫大な量の情報を保持することができる。そして,こうした情報は(数年ないし数十年もの)長期にわたって保たれる。
  • 長期記憶の大半の情報は,すぐによび出すことができない。長期記憶から情報を使用するには,それが活性化される(作業記憶にもちこまれる)必要がある。
  • 長期記憶の情報の活性化は,(小さな安定的な部分からその場で作り出されていくという意味で)創造的である,(一つの要素の活性化が,他の要素群の活性化を導くという意味で)連想的である。
作業記憶(p.29)
  • 作業記憶は限定的である。
  • 作業記憶は明確に区別できる言語的な部分と視覚的な部分とからなる。
  • 作業記憶は大きさが限られているが,相当複雑な構造をもつ塊(チャンク)を取り扱うことができる。
  • 作業記憶は長期記憶と独立に機能するのではない。作業記憶中の個々の事項の解釈と理解は,長期記憶におけるそれらの事項に関係する要素の存在とそれらの間の関連付け(association)から影響を受ける。
  • ある情報が作業記憶の中で占有する塊(チャンク)の実効的な数がいくつになるかは,その個人の知識と心的状態(すなわち,その知識が活性化されているかどうか)に依存する。
教育のために認知モデルからの示唆:5つの足場となる原理(p.48)
  • 構成主義の原理(The constructivism principle)
  • 人は既にもっている知識とのつながりを作ることで,知識を構成する。また,すでに持っている知識を用いて,受け取った情報に対する創造的な応答を生み出す。

  • 文脈の原理(The context principle)
  • 人が構成するもの(認知的応答)は文脈に依存する。

  • 変容の原理(The change principle)
  • 既存のスキーマに合致するか,それを拡張することがらを学ぶのは比較的容易だが,確立されているスキーマを大きく変えることは難しい。

  • 多様性の原理(The individuality principle)
  • 人はそれぞれが自分自身の心的構造を構築するので,学生が異なれば心的応答も学習に対するアプローチ方法も異なってくる。このため,いかなる学生集団においても,非常に多数の認知的変数について,大きな分布の広がりをもつであろう。

  • 社会的学習の原理(The social learning principle)
  • ほとんどの個人にとって,最も効果的な学習は,社会的な相互作用を通して行われる。

学習実態:正答しかし実態は
問題文中の記号から適用すべき公式を見つけ,物理的内容は何ら理解していないのに,正答できることがある.